臨床と研究の狭間空間

整形外科医で某国立大学の大学院で研究をしています。大学院生という立場からのブログです。

膝が腫れる疾患 <外傷編>

みなさんこんばんわ。Dr.Q太郎です。

膝が腫れて受診される患者さんは整形外科の外来をしているとかなり多くいます。

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今回は外傷などを契機に発症する疾患をいくつか挙げてみたいと思います。後日にそれ以外の疾患についても書いてみる予定です。

膝が腫れた患者さんを、救急外来などで診察した非整形外科医の先生やコメディカルの方に参考にしてもらえたらと思います。

(救急外来での対応などを中心に書いているので、あまり患者さん目線での記事ではないかもしれません。)

 

 

①骨折

頻度は多いですが転倒や打撲を契機に生じるので、比較的検討はつきやすいかもしれません。

診断はモチロン、レントゲン撮影です。

他部位の骨折と同じく、膝の打撲後にパンパンに腫れてきて激痛で歩けないという時は疑いますね。

レントゲンで分かりにくい骨折の場合、関節穿刺をすると血腫が引けてきて、その中に油滴が混ざるというのが診断補助になります。

膝蓋骨骨折の場合は膝関節伸展位で外固定してあげれば、非荷重骨なので歩行することも可能です。

大腿骨or脛骨骨折の場合は免荷が必要なので入院になるでしょう。

腓骨近位部の骨折は直逹外力で折れた場合は外固定だけで治りますが、足を捻ったのに腓骨近位部が折れた場合は特殊な骨折なので注意が必要です。(いずれ後日足関節の外傷で書きましょうか)

 

②靭帯損傷

骨折に伴っても生じることはありますが、靭帯損傷はどちらかというと打撲よりも「捻る」ような受傷起点で発生します。

膝関節にはたくさんの靭帯があります。

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日本整形外科学会HPより

その中で比較的頻度の多いものは前十字靭帯(ACL)損傷内側側副靱帯(MCL)損傷はスポーツをしている方で見かけます。

少し頻度が少ないものでは外側側副靭帯(LCL)損傷後十字靭帯(PCL)損傷があります。

靭帯の損傷で出る症状は関節の不安定性と関節腫脹・疼痛です。

整形外科医であればそれぞれの徒手検査を知っているので、診察である程度の目星がつけることができます。

また、ACL損傷は特殊な受傷形態で発生するので、病歴を聞いただけでも予想できることがあります。(またACL損傷についても後日書きたいと思っていますのでそちらを参考にして下さい)

靭帯損傷の確定診断にはMRI撮影が必要です。

補助診断としてはやはり関節穿刺がここでも使えます。骨折と違って油滴の混ざらない血腫のみが吸引できます。

救急外来などで膝の靭帯損傷を疑った場合は、基本的には外固定をしてRICEの指導、翌日の整形外科外来受診の案内ということで問題ありません。

 

 

③半月板損傷

靭帯損傷と同じく、捻るような受傷機転で発生することがあります。

若い人はスポーツで受傷することが多いですが、壮年期や高齢者の方はもともと半月板が加齢性変性を生じている為、向きを変えようとしたり、転びそうになって踏ん張ったりしただけで損傷することがあります。

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日本整形外科学会HPより

半月板は血管の豊富な領域と、血管の無い領域があるので、血管の無い部位が損傷した場合は膝関節内の出血は少なく、骨折や靭帯損傷に比べれば腫脹は軽いことが多いです。

整形外科医による徒手検査であれば靭帯損傷と鑑別はできますが、受傷起点が似ていることと、救急外来で行える検査を考えると非整形外科医での診断は少し難しいと思います。

しかし唯一、この病歴だったらほぼ十中八九、半月板損傷を疑うという病歴があります。

「膝がバキっといって動かなくなった」

いわゆるロッキング症状という物です。

半月板は普段、膝関節の荷重を分散するクッション材のような役目を持ってますが、損傷した部分がめくれ上がって関節内で引っかかると、患者さん本人が動かそうとしてもなかなか動きません。

救急外来でロッキングを解除するのは難しいですし、慌てて解除する緊急性は無いので、救急外来では外固定をしてあげて整形外科外来への受診をしてもらいましょう。

 

④脱臼

少し頻度は低いですが、膝関節脱臼と膝蓋骨脱臼があります。

膝関節脱臼高エネルギー外傷で発生することがあります。

②で書いた靭帯損傷が何箇所も生じている複合靭帯損傷の状態ですね。

レントゲンの側面像で大腿骨の関節面と脛骨の関節面が完全にずれてしまっているので、診断はそれほど難しくないと思います。

救急外来でレントゲンを撮影して診断したら、すぐ整形外科コンサルトで問題ないと思います。

膝関節脱臼で1番問題になるのは、膝窩動脈損傷です。

足背動脈や後脛骨動脈が触知できない場合、造影CTを撮影します。

造影CTを撮影しないにしても、コンサルトの時点で「膝窩動脈損傷の可能性があります」と伝えてもらえると自宅から駆けつける際に非常に助かります。血行再建が必要になるので、同時に血管外科的治療が必要になることもあるのです。

 

膝蓋骨脱臼は外見だけで分かるかもしれません。

いつもの位置に膝蓋骨が無いので!

殆どは膝蓋骨が外側に脱臼します。レントゲンの軸位撮影で診断できます。正面像でも分かりますが、軸位を必ず撮りましょう!

受傷起点は様々で、膝関節の屈曲、伸展の途中で激痛が走り動かせなくなりますが、半月板のロッキングと違い、患者さん本人が外れたと自覚していることが多いです。

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日本整形外科学会HPより

下肢を伸展させて患者さんの緊張が取れれば、比較的容易にパコっと戻るので整復が可能なことが多いです。もし難しければ整形外科を呼びましょう。

脱臼の整復をせずに帰宅させることだけはやめましょう!

整復さえできれば膝関節軽度屈曲位で外固定し、荷重も許可して良いので帰宅できます。

後日、整形外科外来受診を案内してあげて下さい。

 

ざっと書きましたが如何でしょう。

膝が腫れる疾患のうち外傷などで生じるものを挙げました。

これらは腫れることもそうですが、疼痛や可動域制限が困るので救急外来に受診することが多いでしょう。

膝関節は疼痛が強い場合は外固定をすることで、ある程度は症状のコントロールが出来るので、大腿骨や脛骨の骨折などでなければそれほど困らないかもしれませんね。

当直時に鑑別など困った時に参考にしてもらえればと思います。

また後日、外傷以外の疾患なども書く予定です!

 

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