臨床と研究の狭間空間

整形外科医で某国立大学の大学院で研究をしています。大学院生という立場からのブログです。

肩関節脱臼

みなさんこんにちは。Dr.Q太郎です。

今回は昨日アップしたマンガ第2話で出てきた肩関節脱臼について記事を書いてみたいと思います。

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初回脱臼

肩の脱臼は殆どの場合が外傷を契機に発症します。

若い人の場合はコンタクトスポーツで受傷することがすることが多いですね。

ラグビーなんかだと、タックルの際に腕を広げた(外転)状態で肩に衝撃を受けるので脱臼を生じやすくなります。

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高齢の方だと転倒などの低エネルギーな外傷で肩周囲を打撲した時に受傷することが多いです。

受傷後は肩周囲の疼痛が強いので骨折と区別がつきにくいですが、動かした時の痛みは脱臼の方が痛がる印象です。

診断はレントゲンでほとんどが診断可能です。

「ほとんど」と記載したのは、9割以上の頻度である肩関節前方脱臼であれば容易なんですが、ごく稀に生じる肩関節後方脱臼だと時々見逃されることがあり、後々問題になることがあります。

受傷後は何はともあれ脱臼の整復が必須です。

慣れている先生であれば非整形外科医の先生にやって頂くのも問題ないと思います。

どうしても整復できなかったり、自信が無い場合は躊躇わず整形外科医を呼びましょう。

脱臼を整復せず放置すると、関節包の拘縮などが生じて時間経過と共に整復が困難になる為、非常に罪深いです!

自分はzero position法を愛用しています。

 

装具療法

マンガの1コマ目で出てきたように、整復後は三角巾固定をしてもらえれば問題ありません。

その後どうするかは主治医、患者間で相談が必要かと思います。

三角巾での固定は生活がしやすいですが、上肢内旋位での固定になるので若年者の場合8〜9割ほどが「脱臼癖」と言われる反復性肩関節脱臼に移行してしまいます。

なので、患者さんの理解が得られればマンガの様に外旋装具を使った外旋位固定を行うと、反復性に移行する頻度が下がると報告されています。

高齢者の方の場合は、軟部組織の拘縮が生じやすいこともあり、それほど反復性肩関節脱臼に移行する頻度は多くないです。疼痛が軽減してきた段階でリハビリテーションを行い、拘縮を作らないようにしていく治療が中心になります。

どのような固定方法で、どれくらいの年齢かによって治療内容が多少異なりますが、マンガのように装具を勝手に外したりせずに主治医としっかり相談しましょう!

 

反復性肩関節脱臼

脱臼の際に残念ながら関節の支持機構が破綻し、脱臼をしやすくなってしまった状態です。

原因として多いのが関節唇が損傷し、肩関節の前下方の不安定性を生じてしまうBankart損傷、骨性Bankart損傷です。

 

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以前に記事で書いたマレット指と骨性マレット指(過去記事参照)と同様で、損傷した部位に骨が含まれているかどうかですね。

治療方法は基本的に手術です。

損傷した関節唇や関節窩の剥離骨片をアンカーで修復する鏡視下Bankart修復術が一般的です。

参考になる動画を、以前のツイートで貼ってたのでリンクしておきます。

 

 

また、受傷から何回も脱臼を繰り返していると剥離骨片が削れてしまい、関節窩の骨が小さくなってしまうことがあります。

その場合、烏口突起という部位から(イラストでは端折ってますが)上腕二頭筋腱を付着させたまま、骨欠損部に移植して土台を作ってやる、Bristow法(Latajet法)という手術方法もあります。

 

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これにBankart修復術をコンビで行う場合、Bristow-Bankart法(まんまやんけ!)と呼びます。

手術適応は骨欠損の大きさで決定したり、スポーツの種類がコンタクトスポーツであったりするとBristow法が適応になってくる可能性があります。それらの要素を加味して手術法を決定してもらえると思います。

 

それと、補助的な手技でRemplissage法というものもあります。

脱臼を繰り返していると、上腕骨の後方にHill-Sacks legionという、骨が凹んでしまった部位が出来ていることが多いです。

この凹みが大きいと、肩を挙上した際に溝がハマりこむ様な形になり脱臼しやすくなってしまいます。

それを予防する為に腱板をアンカーで縫い付けることで埋めてやる手技があります。

これは良し悪しで、脱臼率は低下するものの、可動域制限になることが多いのでHill-Sacks Legionが大きい場合にのみ使用します。

 

他にも反復性肩関節脱臼に対する手術手技は多数ありますが、私の所属しているグループではこれらの手技のいずれかを選択して治療を行なっていることが多いです。

 肩関節脱臼の種類は他に習慣性肩関節脱臼というものがあります。

おおざっぱに言うと、外傷などを契機に脱臼しやすくなっている反復性肩関節脱臼は、外傷で損傷した部位を修復してあげればいいんですが、習慣性肩関節脱臼は元々なにかしらの素因があって脱臼してしまう状態なので、その何かしらの素因を見つけ、どこまで治すかが非常に難しいんですね。

この治療方法はやや難解であり、もし別の機会があれば書ければと思います(正直なところあまり自信無しw)。

記事を読んでもらったら分かるかもしれませんが、反復性肩関節脱臼の治療は関節の受け皿を治さないといけないので、手術以外ではなかなか難しいです。

周りの方で脱臼を繰り返しており困っている方には一度この記事を勧めてあげてください!

 

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