臨床と研究の狭間空間

整形外科医で某国立大学の大学院で研究をしています。大学院生という立場からのブログです。

腱板損傷

みなさんこんにちは。Dr.Q太郎です。

今回は肩の痛みの原因で、手術加療が必要になる疾患の代表例である腱板損傷について書いてみます。

腱板という構造物は肩関節機能の非常に重要な役割を持っていて、腱板機能を如何に修復・温存できるかが肩関節外科のキーになってきます。

 

 

 

腱板の構成と機能

腱板は4つの腱が集まってシート状になり、さながら「腱の板」になっている為、このような名前がついています。

自分が学生の時は上腕骨頭をボールに例え、それを握りこむような形で腱板が取り囲んでいると教えられました。

上腕骨の前方から肩甲下筋腱

上方に棘上筋腱

上後方に棘下筋腱

さらに後下方に小円筋

これらが上腕骨を挙上、外転、内外旋など行う際に力点となって働きます。

また、上腕骨が肩甲骨の関節窩にきれいにはまり込む求心性を得るのに不可欠となっています。

これらが変性・断裂など生じると肩関節に疼痛や挙上障害など生じてくることになります。

 

腱板損傷の発生

高齢者の方の場合、加齢性変化に伴う変性断裂がメインです。

若年者の場合は大きな外力が加わった際に生じる外傷性の損傷がほとんどです。

壮年期の患者さんの場合は、もともと変性があり耐久性の落ちている部分に外傷が生じることで発生するacute on chronicという病態も時々あります。

acute on chronicの代表例は、中高年者の肩関節脱臼時に腱板損傷が合併する症例ですね。

 

肩関節は外転動作時に上腕骨頭が回転し、腱板が内側に滑走することでスムーズな動きを獲得していますが、腱板の上方には肩峰下滑液包があり、更に頭側に肩峰が存在します。

若いうちは特に問題なく腱板は動きますが、肩峰上腕関節の加齢性変化により、肩峰仮面に骨棘形成が生じてくると腱板が引っかかることがあります。これがインピンジメント徴候です。

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日本整形外科学会HPより



骨と腱が引っかかる事を繰り返していると、骨は物理刺激により骨棘の増大、腱は徐々に損傷部位が広がっていく、というのが変性の進行ですね。

 

保存的治療

薬物療法

これは変形性膝関節症の保存的治療とほぼ同様なので簡単に済ませんておきます。

NSAIDsなど内服薬を使う事で痛みを抑えます。

単純に痛みを抑えるだけでなく、後述のリハビリテーションをしやすくする目的も重要です。

 

リハビリテーション

腱板損傷の急性期〜亜急性期には炎症の改善とともに関節拘縮が強く出ます。

診察上、インピンジメント徴候があれば腱板由来の痛みであることが判断できますが、あまりに関節拘縮が強いと腱板由来の疼痛なのか関節拘縮による疼痛なのかサッパリ分からなくなります。

まずは関節の拘縮を取り、痛みが改善してくるか見ることが重要です。

また、腱板の痛みが出ない向きの挙上運動を習得することも大事ですね。

 

③関節注射

炎症が強い時期には局所麻酔薬とステロイド剤の注射を注入し、痛みと炎症を抑えます。

また、ヒアルロン酸注射を打つことで関節の動きを滑らかにしたりもします。

現在私が大学院で行なっている研究は多少これに関連しています。

 

手術治療

保存的加療をしばらく行なってみても症状の改善が乏しい場合、手術治療に切り替えることになります。

若年者の外傷例に関してはある程度早い時期に手術を行うことも多いです。

①鏡視下腱板修復術

最もポピュラーな治療だと思います。

関節鏡を挿入し、関節腔内を操作して断裂した腱板を縫って修復します。

これもまたいつか解説したいと思います。

 

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鏡視で腱板損傷部位を見るとこんな感じで見えます

ある程度の強度の縫合が必要な為、アンカーというネジ状のインプランを骨の中に埋め込み、アンカーから出ている糸を使って上腕骨に縫い付けるような形で修復します。

小断裂や中断裂が適応ですが、術前のMRIでは小さそうに見えてもいざ手術になったらかなり大きな断裂だったりすることもあります笑

 

②リバース型人工肩関節置換術

これの登場で広範囲腱板断裂の治療が大きく変わったと思います。

以前は③のパッチ充填で対応していた症例の成績が良くなったんですね。

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Zimmer BIOMET社 comprehensive reverse shoulder

また詳細はどこかで書きたいですが、従来型の人工肩関節を「リバースした」形になっており、従来型よりも肩関節機能が再建しやすく、重度の腱板損傷に対する主力になってきています。

その反面、術後トラブルが生じるとリカバリー手段が確立されておらず、「肩関節手術のリーサルウェポン」的存在です。

 

③大腿筋膜パッチ充填

以前は断裂部位が大きすぎて修復できない場合はこの手術がメインだったと聞きます。

大腿骨転子部から遠位方向に大きな筋膜がありますが、そこを採取してきて腱板断裂部に充填してしまおうという手術です。要するに移植する感じですね。

私は執刀経験が無いので術後成績にはあまり言及できませんが、再断裂など無ければ疼痛のコントロールがある程度得られたようです。

 

④鏡視下関節唇形成術

近年、出現してきている手術です。指導医が執刀しているのを1例助手をしたのみですが、③のパッチ術に似ています。

修復する部分を腱板の欠損部分にするか、肩甲骨関節部と上腕骨頭の上面にするかの違いです。

まだ症例数はそれほど多くなく、今後の報告に期待です。

 

腱板断裂の修復について簡潔に記載してみました。

実は10月から私は肩関節鏡手術を多数している施設研修へ行く予定で、少し忙しくなるかもしれません。

それまでは頑張ってブログ更新を続けていきたいと思います。

それではまた。

 

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